夫の海外転勤が決定したとき、奥様がなぜ同行しない選択をするのか、その背景にある理由と、彼女たちにどのような利点と難点が存在するのかを掘り下げていきましょう。
海外勤務の機会がある企業で働いていると、「将来的に海外に行く可能性があるが、その時はどう対応する?」というテーマで配偶者と話し合う機会があるはずです。筆者自身も夫と数回、そうした会話を交わした経験があります。
「ことしは海外の話が出るかもしれないよ。そうなったらどうする?」という質問に、以前は「とても面白そうだから、一緒に行こうかな」と応じていたものですが、実際に赴任が確定すると、様々な不安が浮上し「え?マジで…?」と心境が一変します。
結局、夫と一緒に行くのか、夫だけ単身で赴任するのか、悩むところですが、その「悩み」そのものが「不安や難点」の表れなのです。
奥様が「一緒に行こう!」と心から決意するためには、こうした不安や難点を克服する必要がありますし、海外赴任が逆に有益な経験、つまり「利点」となる場合には、その選択をポジティブに考えられるようになるでしょう。
奥様に海外転勤への同行を望んでいるけれど、どう伝えればいいか悩んでいるご主人も多いかもしれません。そんなときこそ、実際にどんな不安や躊躇があるのか、どのような利点・難点が考えられるのかを一緒に見てみましょう。
海外転勤に妻がついてこない理由とは?代表的なものを解説
奥様の仕事やキャリアの休止・辞職の可能性
海外転勤の際、配偶者は仕事を辞めることになるケースが少なくありません。
赴任先によっては、同行ビザでの就労が認められない国も多く、これまでに構築してきたキャリアを断念しなければならないこともあります。リモートワークが可能な企業はまだまだ少ないのです。
海外赴任の期間は概ね3から5年。帰国しての職探しを考慮すると、この期間の空白は決して短いとは言えません。再就職の難易度は、年齢など様々な要因に左右されるため、キャリアを一度放棄するという重い決断をする際には、双方に相当な覚悟が必要になるでしょう。
数年のブランク後の職探しは、予想以上に困難を伴うことも覚悟しなければなりません。
生活の中での心配事:言葉の壁、安全性、医療制度について
日々の暮らしには、不安の影がつきまとうのが実情です。言葉の壁があり、スムーズに買い物をすることすら難しくなります。加えて、治安の面でも懸念があり、夜は外出を控えざるを得ない状況です。
日本語が通じる病院は限られた大都市にのみ存在し、日常的な風邪でさえ診察を受けるのに一苦労となります。
子どもが発熱した時も、日本なら一日様子を見ることもできますが、こちらでは病院へのアクセスの問題から、小さなことでも大きな心配へと変わってしまいます。
専業主婦として夫を追って来た場合、社会的な繋がりを失い、孤立感を味わうことにもなりかねません。
夫は会社の同僚がおり、ある程度のコミュニティがありますが、妻には夫だけが頼りです。しかし、夫には仕事があり、一日中サポートを受けられるわけではありません。
困った時に相談できる相手もおらず、帯同することが本当に正解なのか、治安が良く、周囲に頼れる人がいる日本に留まる方が良いのではと思ってしまいます。
日本にいる安心感や言葉の通じる環境が恋しくなります。
子育ての観点からの海外赴任の検討
海外赴任に際して考慮すべき重要な要素の一つが子どもの教育です。赴任先によっては、日本と同じかそれ以上のレベルの教育を提供できるかどうかが心配事になります。
子どもが現地の学校に通学する場合、確かに現地言語の修得は迅速に進むでしょうが、日本における教育内容を同様に受けるのは難しいかもしれません。
国語や日本史など、日本特有の科目がないことや、言語の壁、差別への対処など、考えられる課題は予想以上に大きいかもしれません。
海外赴任を経験した知人によると、現地の学校へ平日通学し、週末は日本人学校で学んでいたとの話も耳にしますが、これが子どもにとってどれほどの負担になるのか真剣に考慮する必要があります。
また、すでに地元でスポーツや音楽など趣味を楽しんでいたり、競争を勝ち抜いて入学した学校に通っている場合、それらを諦めて海外へ移る価値があるのか、また海外生活がもたらすメリットがそれに見合うものなのか、綿密に検討する必要があります。
さらに、まだ学齢に達していない子どもがいる場合も配慮が必要です。夫が仕事に出ている間、海外での生活は想像以上に大変なことでしょう。日本でも一人で子育てをするのが大変なのに、海外ではそれが一段と厳しくなることは確実です。
頼りにしていた実家や一時保育の手が届かなくなるので、特に乳幼児の世話は体の不調や怪我の対応を含め、心労が増すことになります。日中の困った時に助けを求める相手がいないだけで、精神的プレッシャーは相当なものになります。
また、子ども自身も、友達や楽しい学校生活、習い事から離れることなく生活を続けたいと思うでしょうし、それらを中断させることが可哀想に感じる親御さんも多いでしょう。
海外赴任の際、配偶者が同行する利点
この章では、海外赴任がもたらす利点についてご紹介いたします。これまで海外赴任に同行しない理由やデメリットをお話ししましたが、配偶者が同行することにより見込めるメリットも多々あります。
- キャリアを継続し、さらに向上させるチャンスがある
- 子どもの教育に適した環境にアクセスできる
- 貯蓄を増やす絶好の機会
- 家族で一緒に過ごす時間がぐっと増える
キャリアの継続や向上の可能性
もし以下のような条件が整っているのであれば、奥様もキャリアを断念せず、同意してくれるかもしれません。特に帰国後の就職活動で有利となる場合は、奥様が納得しやすいでしょう。
- 奥様の勤めている企業に再就職制度が設けられている再就職制度を提供している企業では、復職が比較的容易になるため、多数の方が利用しています。ただし、3年以内に限るなどの条件がつくことがほとんどですので留意が必要です。
- ご主人が勤務する企業が奥様の就業に関して許可している夫の会社が規定で奥様の就業を認めていれば、奥様が日本の企業と契約を結び、海外でリモートワークを行うことができ、これを行っている方々が少なくありません。
- 言語や資格の獲得が可能海外滞在を利用して新たな言語や資格を習得すれば、仕事の選択肢を広げ、将来的な収入アップにも繋がるでしょう。特に二カ国語を話せるようになれば、より多くのチャンスが開けることになります。
子どもの教育環境に関する様々な選択肢
子どもに適した教育環境を選べるかどうかは①現地校や日本人学校のような多様な教育施設の選択肢があるか、②子どもが好んで取り組んでいる活動を続けられる状況か、の二点が重要です。
さまざまな型の学校があり、国内同様に公立校、私立校、インターナショナルスクールなど多種多様です。子供が通う学校がどういった性格のものなのか、日本語教育は行われているのか、また地元の言語を習得する機会があるのか等、検討すべき点は多岐にわたります。
よって、子供にとって理想的な教育環境がその地に存在するかも一つの大切な要素です。
また、子供が力を注いでいる習い事や趣味がある場合、それを目的地で継続可能かどうかが親御さんにとっては関心事です。その才能をさらに伸ばせるような環境がある赴任地ならば、それは非常に魅力的に感じられることでしょう。
海外赴任における貯蓄の機会
一人での海外赴任は、現地での生活に掛かる費用に加えて日本の生活費も必要になってしまいます。
しかし、家族が一緒に渡航する場合は、日本国内でかかる生活費が不要になり、その分を貯金に回すことができます。多くの場合、企業が家賃や一時帰国の際の航空券など、一定の範囲内で支出をカバーしてくれる場合があります。
さらに、海外での勤務となると年収が1.8倍に増加するとも言われ、通常よりも多くの貯金ができると認識されています。しかし、帰国後の夫の年収が減少するケースが多いことには留意が必要です。
特に、配偶者が継続して就業をしている状況下で、生涯での収入トータルが明らかに高くなる場合、その点を注意深く考慮することが重要です。
ファミリーとのふれあいが豊かになる利点
この点が最も重要だと考える方も多いでしょう。何年かの間であっても、家族とバラバラに過ごすよりも、共に時を過ごせることの方が素晴らしいと、私は感じたのです。
直接「寂しいから一緒にいてほしい!独りにはしないから!」と頼まれたら、「やっぱり連れて行ってもらおうかな」と感じますよね。私のケースでは、自分が寂しいのは言うまでもなく、子供たちや夫も寂しいに違いないと考え、同行することを決意しました。
海外赴任へ帯同するものの、夫が出張で2か月間留守になり、週末も常に仕事で忙しく、想定していたような家族との時間がまったく持てないという最悪のケースも考えられます。
そのような経験をした人の話もちらほらと聞きます。実際に海外赴任を経験している方の実情をよく確認し、その上で奥さんにもきちんと説明し、帯同するようお願いすることを強く推奨します。
総括
海外転勤に妻が同行しない主な理由を挙げてみました。
- 仕事やキャリアの中断、退職
- 生活面での不安、言語・治安・医療体制
- 子育てや教育、学校選び
奥さんにとっては、「不安」と「孤独」が最大のネガティブな要素でしょう。これらが解消されれば、海外への同行を考える気持ちが湧いてくるものです。
私もさまざまな不安がある中、夫と共に対策を話し合い、解決策を見つけ出しています。もしご夫婦で海外生活を考えていらっしゃるのなら、不安な気持ちを理解し、一緒に希望に満ちた明るい未来を描いていただければと願います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。